ブライダルアイテム制作|ブライダルワークス Photoria(フォトリア) ブライダルワークス Photoriaでは富山市を拠点に活動するデザイナーyucoが、ブライダル関係の仕事と紙面デザインの仕事の経験を生かし、ウェルカムボード・プロフィールパンフレット・ブライダル新聞など、ウェディングのペーパーアイテムを中心に、ECサイトのバナー制作、商品登録作業まで、幅広いデザイン制作を行っています。

ブライダルストーリー_いちばんまえの約束

 

 

「結婚式、やめようか」

美月がそう言ったのは、日曜日の夜だった。

 

テーブルの上には、式場でもらったパンフレットと見積書。

 

数字の羅列を見ているうちに、胸の奥がすっと冷えていくのを美月は感じていた。

 

その隣には、二人で暮らし始めたこの部屋の更新費用の通知と、
これから買う予定だった家具のカタログが無造作に置かれている。

 

遼平は見積書を見つめたまま、しばらく何も言わなかった。

 

やがて遼平は小さく息を吐き、

「……そうしようか」

と言った。

 

美月は、思っていたよりもあっさりとした返事に、力なく笑った。

 

「うん。そのほうがいいよね」

 

そう答えながら、自分でも戸惑っていた。

 

自分から「やめようか」と切り出したはずなのに、

 

胸の奥で何かがぎゅっと縮こまる感覚があった。

 

——本当は、少しくらい迷ってほしかったのかもしれない。

 

引き止めてほしかったのかもしれない。

 

そんな自分の身勝手さに気づいて、腹立たしささえ感じた。

 

「じゃあ、これ捨てとくね」

 

式場のパンフレットと見積書をまとめ、美月が立ち上がったときだった。

 

「あ、待って」

 

遼平が顔を上げて、美月を見た。

 

「何?」

 

美月は少しだけ、期待した。

 

「いや……いい」

 

遼平はまた視線をテーブルに落とした。

 

何を言いたかったのだろうかと問いただしてみたかったものの、それはしなかった。

 

それから二人は、結婚式の話をしなくなった。

 

 

美月のこと

 

 

最初から豪華な披露宴を望んでいたわけではなかった。

 

美月が本当に見たかったのは、女手一つで自分を育ててくれた母が、

 

あの日どんな顔でこちらを見てくれるのか——

 

ただ、それだけだったのだ。

 

けれど見積書に並ぶ数字を考えると、これからの二人の暮らしにまで影を落とすように思えてしまう。

 

小学生のころ、母の久美子が勤めるクリーニング店へ学校帰りに寄ると、

 

店の奥にはときどきウェディングドレスが掛かっていた。

 

真っ白な生地が蛍光灯の光を受けてきらきらとしているのが、幼い美月にはとても美しく見えた。

 

珍しさに近寄っていくと、

 

「触っちゃ駄目よ!」

 

伝票を書く母に強く注意されたものだった。

 

それでも美月は、ドレスを見上げるのをやめられなかった。

 

「ねえ、お母さん。私もいつかああいうの、着れるかなー?」

 

久美子は書く手を止めて美月を見た。

 

「着たいと思う時が来たらね……」

 

と笑った。

「そのときが来たら、お母さん見たい?」

 

「そりゃー見たいよ。一番前でね」

 

その会話をずっと覚えていた。

 

忘れていたはずの記憶が、いつも心のどこか奥深いところに、静かに沈んでいたのだ。

 

 

遼平のこと

 

 

一方の遼平には、まったく別の記憶があった。

 

父の会社が傾き、家の空気が張り詰めたものに変わった小学生のころ。

 

夜中、壁の向こうから両親の言い争う声が聞こえてきた。

 

お金のことだった。声の高さ、言葉の鋭さ、その一つひとつが、

 

幼い遼平の胸に小さな棘のように刺さっていった。

 

家庭が壊れてしまうのではないかという不安に押しつぶされそうになりながら、

 

弟と二人、布団の中で聞こえないふりをした夜が何度もあった。

 

息を潜め、暗闇の中で弟の手をそっと握っていたことを、遼平は今でも覚えている。

 

だから遼平にとって「家族を守る」ということは、何よりもまず、

 

お金の心配をさせないことだった。

 

美月との結婚式が嫌だったわけではない。

 

白いドレスを着た美月を見たいという気持ちは、確かにあった。

 

けれどそれ以上に、その一日のために二人の貯金が消えていくことが、遼平には怖かったのだ。

 

あの夜の声が、今もどこかで自分を縛っているのかもしれない——

 

遼平自身、そのことにうっすらと気づいていながら、うまく言葉にできずにいた。

 

遼平もまた、現実的な事情から結婚式を諦めようとしていた。

 

そしてそのことを、美月には言わなかった。

 

 

結婚式を諦めてから三カ月後、二人は婚姻届だけを役所に提出し、晴れて夫婦になった。

 

お祝いに、と帰り道のスーパーで少し高い牛肉を買った。

 

「今日くらい、いいよね?」

 

「お酒も高いやつにする?」

 

美月が楽しそうに言うと、

 

「それは贅沢だな」

 

遼平が笑って答えた。

 

二人で顔を見合わせて笑った。

 

幸せだった。本当に、幸せだった。

 

だからこそ美月は、これでいいんだと自分に言い聞かせるように、

 

結婚式のことを考えないようにしていた。考えてしまえば、

 

心のどこかにあるはずの寂しさに、気づいてしまいそうだったから。

 

 

 

ある日、美月は実家で母の片付けを手伝っていた時、

 

押し入れの奥から、小さな缶の入れ物が出てきた。

 

「なんだろう……?」

 

片付けの手を止めて、埃をかぶった蓋を開けてみる。

 

中には、美月の小学校の名札。折れた髪留め。短くなったお気に入りの鉛筆。

 

そして、折り畳まれた一枚の手紙が入っていた。

 

広げてみると、覚束ない子どもの字で、こう書いてあった。

 

「およめさんになったら、おかあさんをいちばんまえにすわらせる」

 

美月は思わず笑った。

 

「えー? 何これ! まだあったの?」

 

声を聞いた母が近寄ってきて、手紙を覗き込んだ。

 

「ああ、懐かしい!」

 

母も声をあげて笑った。

 

その笑顔が、あまりにも嬉しそうで、美月は不思議な気持ちになった。

 

「これ、取ってたの?」

 

美月は手紙と母を交互に見た。

 

「いつだったか、美月が学校帰りにお店に寄ってくれたじゃない? その日に書いていたもの」

 

「いいじゃない、取ってあっても」

 

母はいたずらっぽくそう言うと、また元の場所に戻って、忙しそうに片付けを続けた。

 

何でもないことのように振る舞うその背中を、美月はしばらく見つめていた。

 

美月はしばらく手紙を眺めていたが、そっと缶へ戻そうとした、そのときだった。

 

「ドレス着たらどんなだったのかね、なんてね」

 

母が手を動かしたまま、軽い調子で言った。

 

その瞬間、美月の手が止まった。

 

心臓の奥を、細い針でつつかれたような痛みが走った。

 

けれど母はすぐに続けて、

 

「あ、ごめんごめん。気にしなくていいから。二人が元気で幸せならそれでいいと思ってるから」

 

そう言って、また笑った。

 

 

いつもの、優しい笑顔だった。

 

——母はきっと、結婚式を楽しみにしていてくれたに違いない。

 

あの日の、たわいもない約束を、母はこんなにも長い間、大切に、缶の底にしまってくれていた。

 

それなのに自分は、いつの間にか「お金がかかるから仕方がない」のひとことで、

 

あの約束も一緒に、心の奥にしまい込もうとしていたのかもしれない。

 

「……ごめん」

 

気づけば、そんな言葉がこぼれていた。

 

「なんで謝るの? お母さんこそごめん、だよ」

 

母は明るく笑いながら美月を見た。

 

けれど美月は、母の顔を見ることができなかった。

 

涙がこぼれそうで、うつむいたまま、缶の中の手紙をそっと指でなぞった。

 

 

 

その夜、美月は遼平に話した。

 

「私ね、結婚式がしたかったんじゃなかったのかもしれない」

 

遼平が顔を上げる。

 

「お母さんを、一番前に座らせて、ドレス姿を見せたかったんだと思う」

 

言葉にしてみて、初めて気づいたことがあった。式場や料理や、そういう「形」が欲しかったのではない。

 

あの日、母と交わした小さな約束を、ちゃんと果たしたかった。それだけだったのだ。

 

遼平はテーブルの木目をしばらく見つめていたが、美月の言葉が終わるのを待って、静かに口を開いた。

 

「俺も、式が嫌だったわけじゃない」

 

美月が遼平をじっと見つめる。

 

「二人で貯めたお金がなくなるのが、怖かっただけ……」

 

それは、結婚してから初めて聞く言葉だった。

 

遼平は、子どものころの話をした。壁の向こうから聞こえてきた両親の言い争う声。

 

弟と二人、布団の中で息を潜めた夜のこと。

 

誰にも言ったことのなかった記憶を、遼平はぽつぽつと、途切れ途切れに語った。

 

「美月とは、安心できる家庭を築きたくて。お金のことで喧嘩もしたくなくて……」

 

俯きながら話す遼平の姿は、子どものころの不安を今もどこかに抱えたままの、あの日の遼平と重なって見えた。

 

美月は何も言わず、ただ黙って耳を傾けた。

 

「私、そんなふうに思わないよ」

 

「分かってる。でも、怖かった……」

 

美月は少し考えてから、静かに聞いた。

 

「じゃあさ」

 

「うん」

 

「お金をたくさん使わない結婚式なら、怖くない?」

 

遼平は不思議そうな顔で、初めてまっすぐに美月を見た。

 

その表情の中に、これまで見たことのなかった、ほんの小さな光が灯ったような気がした。

 

二人が選んだ結婚式

 

二人が選んだのは、レストランウェディングだった。

 

式場ではないけれど、レトロで上品な老舗の店。

 

二人で足を運んで調べ、店主にも直接相談し、快く貸切にしてもらえることになった。

 

美月と遼平は、ささやかながらも結婚式を行うことを、母の久美子に伝えた。

 

久美子は驚いた様子を見せたが、すぐに、

 

「ありがとう、すごく嬉しい……。本当に楽しみね」

 

そう言って、こぼれそうになる涙を押し戻すように、何度もまばたきを繰り返した。

 

その姿を見て、美月の胸の奥がぎゅっと締めつけられた。

 

——やっぱり、私は見せたかったんだ。

 

ドレス姿を、お母さんに見せたかったんだ。

 

二人が報告を終えて帰ろうとしたとき、久美子が遼平を呼び止めた。

 

「遼平くん」

 

「はい」

 

「この子、昔から我慢するの得意だから」

 

「……はい」

 

「我慢してそうだったら、聞いてやって」

 

遼平はふっと笑った。

 

「それをいうなら僕も同じみたいです」

 

自分の首元を撫でながらそう言う遼平を見て、久美子も笑った。

 

「じゃあ、二人とも、ちゃんとしゃべらないと駄目ね」

 

美月は、その会話を黙って聞いていた。

 

 

 

 

招待したのは、両親ときょうだい、祖父母、それから二人の共通の友人。

 

全部で十二人。

 

美月と遼平は、自分たちの手で十二枚の席札を作り、ウェルカムスペースも二人で飾りつけた。

 

入り口には風船を吊るし、来てくれる一人ひとりへ、短い手紙も用意した。

 

豪華な会場ではない。

 

それでも、二人が「ありがとう」を伝えたい人の顔を一つひとつ思い浮かべながら作り上げた、小さくて温かな結婚式だった。

 

美月の母の席は、もちろん「いちばんまえ」。新郎新婦を一番近くで見られる、特等席だった。

 

席札に母の名前を書き終えたあと、美月はしばらくその文字を見つめていた。

 

「約束、遅くなってごめんね。ようやくだから……」

 

誰に聞かせるでもなく、美月はそう独り言をつぶやいた。

 

缶の底に眠っていた、九つの美月が書いた約束は、果たされようとしていた。

 

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結婚式は、人数の多さや豪華さだけで決まるものではありません。

 

大切な人の顔を思い浮かべながら、一人ひとりの名前を書き、

「来てくれてありがとう」の気持ちを込めて席を用意する。

 

そんな時間もまた、結婚式の大切な思い出になるのだと思います。

 

Photoriaでは、家族婚や少人数の結婚式に似合う

木製の席札やエスコートカードをご用意しています。

 

たくさんの人を招く結婚式ではなくてもいい。

 

本当に大切な人たちと過ごす一日が、

少しだけあたたかく、心に残るものになるように。

 

そんな小さな結婚式のお手伝いができたら嬉しいです。

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